Little AngelPretty devil 
       〜ルイヒル年の差パラレル・番外編

       “名のみの春へ”
 



新しい年が明け、
新年恒例の様々な催しやら祭事やらが目白押しという時期が
やっとのこと落ち着いて。
ああこれからこそが寒さの本場だねェ、
ちょっとそこいらへ座るにも綿のお布団敷いて、
お外へ出るなら羊のすとぉる巻いて、
ようよう暖かくしてないと
風邪をひいてしまうから気を付けないとと。
それは良く気の付く書生の少年が
お師匠様へは勿論のこと、小さな弟分らへも手厚い世話を焼く。

「そ奴らは自前の毛皮で十分暖が取れておるのだがな。」

本当は狐の子らで、
冬毛のふかふかした毛並みを和子へと転変した姿の下に備えておいで。
なので、

「せぇなvv」
「ぬくぬく〜vv」

小さな和子二人、
構われるのが嬉しいとばかりに
ふんわりとした造作のお顔をほころばせ、
甘い声上げて きゃっきゃとはしゃぎ出し。
押しくらまんじゅうのごとくにぎゅうぎゅうとくっついて来られると、
ふわふかな身の下の暖かさがこちらへお返しされて届いて、

「あ、ホントだ温かいvv」

子ぎつねの恩返しだな、なんですかそりゃと、
このところの毎朝繰り返されてるやり取りを今朝もご披露したところで、

「おととさまっvv」

暗くなるのはかなわんと、庭へ向いた蔀を開けた開口部。
寒のさなかの底冷え除けに、せめてと下ろされた御簾には
この館の主人の特別な咒が掛かっているので素通しよりはましなのだけれど。
そんなすだれの透かし越し、
あっと声上げ、小さな指で御簾の向こうを差すくうちゃんだったのへ、
囲炉裏代わりの火鉢を囲んでいた面々がつられるようにそちらを見やれば、

「おお、帰ったか。」

ここいら一帯の見回りに出ていたらしき黒の侍従殿が姿を見せており。
濃い緑の地に黄みがかった色糸で織り出した浮線綾の狩衣と、
白の強い灰の狩袴でまとめたいでたちは
形式にも色襲的にもやや外した合わせ方だが、

「宮中までいらしたのですか?」
「まあな。」

パッと見には雑仕以上の装い、
その姿がそこにあっても見咎められはしなかろという程度の気配りをしている彼なので、
さてはそういう場へも伸したのかと瀬那が問う。

「あすこの中庭へも、身内が寝入ってるところがあるのでな。」
「そうなんですか。」

蜥蜴の総帥である彼はだが、不思議と寒の冴える中でも眠らないでいられる存在で。
仲間が皆、冬の眠りについてる間、
時折 様子見にと見廻っているそうな。
そんな彼の事情はまだよく判らないらしい子ぎつねさんたちが、
それでも大好きな大人、覇気は強いが小さいものには甘い葉柱なのへ、
育ての親だしと容赦なく、遊んでとまとわりつきにゆくのはいつものことだが。

「おととしゃま、いいにおい。」
「いいによい、すゆのねvv」

おや、何だか微妙な“見つけた”をしたようで。
よいせと炭櫃の傍へ腰を下ろした大柄な御仁へ
こちらは立ったままくんすんとお鼻を近づけ始める。
香もまた当代では立派にたしなみやお洒落の一つで、
男性でも衣紋や持ち物へと香を焚きしめたりするものなれど、

「おいおい、そんな面倒なものは…」

かかわりないぞと、柔らかいお鼻をくっつけられるくすぐったさへ、
苦笑をこぼしたのも束の間、

「どら。」

似たような色白の、だが、どう見たって大人の高い鼻がくっついて来て、
おいおいと今度は本気で飽きれた葉柱で。
いつの間に寄って来たやら、蛭魔が膝立ちとなってすぐ傍に来ており。
そのまま和子らが嗅いでいたあたり、耳の周りや鬢のところをすんすんと嗅ぎ始める。

「…梅、だな。」
「あ、そっか。」

まさかに他の同族も冬眠中なので
女性がらみという間違いはなかろうが、(誰です、これは)苦笑
子供らがわあとはしゃぐような甘い匂いとなると、
この時期には難しいはずが、
あっさり言い当ててしまった神祇官補佐殿。
出仕の折に東宮が丹精なさっておいでの株を観たものか、
それでもまだまだ蕾だったろに、
それが咲いたらしいことをこんな恰好で知ったのは
当家ならではなのかもしれず。
ただ、

「判ったんなら もういいだろが。」

すんすんとお顔を近づけたままの術師殿なのへ、
何のつもりだ、侍従のくせに奄「付きとは生意気だとか思うのかと、
いつもがそんな流れなの、先回りして警戒した葉柱だったが、

「…阿呆、」

短くそうとだけ口にした御主様。
長命の梅なれば、何かしら命精もついていたやもしれぬ、
そんな気配を嗅ぎ取って、
あのひねくれ者の機嫌が傾いだのかもしれないと、
大まかな助言、これも珍しく進から聞いたセナくんだったのはのちほどのお話…。





  
     〜Fine〜  17.01.25


 *こちらでは大阪城とか、有名な梅林からの梅の便りが聞かれます。
  ああでも、まだ一月なんですね。
  なんかバタバタしてる割に日が長いというか
  もう二月くらいの気でおりましたよ。
  ぐぐんと寒くなったからかなぁ、う〜ん。

ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv 

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